T.T. 2010年 修士(経営学)
ファンサイトの売上効果と判別手法に関する研究

1. 研究の背景

 国内におけるブログ総数は約1,690万,ブログ記事総数は約13億5,000万とされている[1].こうしたConsumer Generated Mediaの発展に伴い,パソコン・携帯電話のウェブサイトを通じて購入体験の口コミをする人の割合が若年層を中心に増加している[1].この様な購入体験の口コミには,消費者満足のフィードバック[2]として知られており,サービス・商品のファンが行っていると考えられる.ファンを活用するマーケティング手法は、実務家の間でも注目されている.

2. 現状と課題

 アフィリエイト広告市場は,2008年度には813億円と拡大をしている[3].アフィリエイト広告とは,インターネット上における広告手法の形態で,1)企業と提携関係を結んだアフィリエイトが,自身が運営するサイトに企業の広告を掲載する,2)消費者がアフィリエイトのサイトを訪問し,広告を閲覧・クリックし,企業サイトで商品の購入や資料請求などの成果が発生する,3)企業はアフィリエイトに広告費を支払う,という成果保障型広告である.費用対効果が明確であることから,EC事業者の多くが利用をしている.

アフィリエイト広告経由の売上が拡大しているが,その内訳はポイント系アフィリエイトあるいは検索系アフィリエイトからの売上に大きく偏っている.これらのサイトは独自のコンテンツが乏しく,訪問した消費者の購買行動を活性化するには至っていないと考えられる.売上の多くはポイント獲得を目的に経由した結果に過ぎず,売上の純増にはあまり貢献していないという指摘が実務家の中からされている.

一方、成果保障型広告を掲載するアフィリエイトサイトにおいて,ファンサイトの存在が確認されている.ファンサイトとは,サービス・商品のファンが運営するサイトであり,主にブログで構成されている.そのコンテンツはサービス・商品の体験談(クチコミ)を中心としている.通販という情報の非対称性が高い取引形態においては,消費者間のクチコミによる影響が強くなる[4].消費行動を活性化させ,売上の純増を図るには,商品体験談など独自のクチコミ情報を有するファンサイトを育成することが重要であると考える.

本論文では,ファンサイトが購買行動を活性化させ売上拡大に貢献しているか否かについて,検証を行う.また,ファンサイトの育成については,ファンサイトを判別する手法の提案を行う.ファンサイトの育成には,ファンサイトを特定し特別な広告費用の支払いを行うなど,ファンサイトの活動を支援・強化することが考えられる.しかし,対象としたECサイトにおいてもファンサイトは約100サイトにしか満たさず,全アフィリエイトサイト約13,000に対して圧倒的に少数である.そのため,企業側が発見することは難しい.ファンサイトの判別手法の確立が,実務家の間で求められている.

3. 先行研究

 ファンサイトに関連して,クチコミと購買行動に関する先行研究は,クチコミの影響と構造に関する研究が初期に行われ,その後,商品差異による影響の違いが研究されてきた.現在は,インターネット上のクチコミに関する研究が活発に行われている.Chevalierらはamazon.comの書籍レビューと売上ランキングが負の関係にあること[5],小川はSocial Network Service “@コスメ”ユーザーの92.4%がクチコミを参考に購買したことがあることを報告した[6].本研究は,クチコミの場として,ブログを主とするファンサイトがもたらす購買行動への影響を検証する.

 ファンサイトの判別に関する先行研究としては,佐々木らによるサイトの自動分類が挙げられる[7].HTML中のmetaタグの内容を属性とした機械学習により,62.7%の分類精度が得られたと報告している.しかし,個人が利用するブログサービスの多くはmetaタグの編集できないため,metaタグ以外に個人サイトの特徴を属性とする必要がある.

 齊藤らは,個人を主とする優良アフィリエイトサイトの特徴分析を行っている[8].これは,優良とされるアフィリエイターのインタビュー記事などからノウハウを構造化し,優良アフィリエイトサイト構築とその特性を抽出した研究となる.優良アフィリエイトサイトの特性を,25の特性に分類している.

 本研究は,佐々木らが行った,HTML中の文字列を属性とした機械学習によってファンサイトの判別モデルを構築する.属性は,齊藤らが抽出した優良アフィリエイトの特徴を考慮し,決定した.

4. 研究に使用したデータ

 EC事業者A社のアフィリエイト広告に関するデータ(2004年1月〜2009年2月の約5年分),を使用する.アフィリエイトサイトのデータには,実務家によってファンサイトか否かのクラスラベル付けがなされている.また,アフィリエイトサイトについては,齊藤らが抽出した優良アフィリエイトの特性に基づき,HTML中の文字列より合計97の量的変数化を行った.

5. ファンサイトによる売上効果の分析

 購買行動活性化の指標として,アフィリエイトサイトからECサイトへの1訪問あたりの購入回数(Order Per Click=OPC)を採用し,ファンサイトとそれ以外のサイトを比較したのが表1である.ファンサイトのOPCは,リスティングサイトとその他サイトよりも有意に高いことを確認した.この差はポイントサイトよりも劣るが,ポイントサイトは購入を決定してからポイント目当てで訪問する消費者が多いことから,妥当な結果と考えられる.また,有意水準10%でも有意な差は認められなかった.消費者の購買行動は,ファンサイトを訪問することで,活性化されたことと考えられる.

<表 SEQ 表 \* ARABIC 1. OPC平均値:Welchのt検定結果>

6. ファンサイトの判別手法

 本研究では、全アフィリエイトサイト数に対してファンサイトは1%にも満たない,アンバランスなデータから判別モデルの構築を行う.学習手法はMetaCostアルゴリズム[9]を使用する.通常の学習手法は0-1損失関数を前提としているため,多数の負例データを負例に分類し,少数の正例データを負例に誤分類するようなモデルが構築されやすい.MetaCostは,学習データのクラスを誤分類コスト期待値が最小となるクラスに書き換えることで,アンバランスでも誤分類されにくいモデルを構築することができる.

学習にはフリーソフトウェアのWEKAを使用した.モデル構築にはMetaCostアルゴリズムを使用し,ベース分類器はJ-48(C4.5)を使用した. J48が構築した分類モデル(決定木)より,ファンサイトの分類には,図1に示す通り4つの属性で99.19%の非ファンサイト,98.42%のファンサイトを正しく分類できることを確認した.但し,この精度はMetaCostによるクラスラベルつけ替え後のデータに対する精度である.クラスラベルつけ替え前のデータに対しては,62.11%のファンサイトを正しく分類できた.この結果より,4つの属性がファンサイトの判別に重要な属性であると考えられる.

<図 1. ファンサイトではないと判定された属性>

上記4属性のみを用い,MetaCostアルゴリズムを使用しベース学習器にNaiveBayesとJ48,および通常のJ48の3つのモデルを構築し,分類性能を比較した結果を図2に記す.結果より,通常のJ48の学習モデルでは僅か10.5%しかファンサイトを判別できなかった.一方,MetaCostアルゴリズムを使用した2つのモデルは分類精度が高く,特にベース学習器にNaiveBayesを用いたモデルでは,74.7%のファンサイトを判別できた.

<図2.ファンサイト判別結果ROC曲線>

7. 結論

 ファンサイトの売上効果と判別に関する研究を行った.ファンサイトを経由した消費者は,1訪問当たり購入回数がリスティングサイトの1.65倍,その他サイトの1.24倍と,購買行動が活性化されていることを確認した。また,ファンサイトの判別においては,MetaCostを使用しベース学習器にNaiveBayesを用いた分類モデルによって,74.7%のファンサイトを発見できた.また,上記の分類性能は,僅か4つの属性で実現できることを確認した.本論文の結果より,ファンサイトを活用するマーケティング手法について、議論が活発になることを期待する.

参考文献
[1] 総務省:「情報通信白書 平成20年版」 (2008)
[2] 清水聰:「新しい消費者行動」,千倉書房 (2004)
[3] 矢野経済研究所:「アフィリエイト市場に関する調査結果 2009」(2009)
[4] 濱岡豊:「消費者間相互依存/相互作用」,マーケティングサイエンスVol.2 No.1.2 (1993)
[5] CHEVALIER and MAYZLIN:「The Effect of Word of Mouth on Sales : Online Book Reviews」, Journal of Marketing Research Vol.XLIII (2006)
[6] 小川美香子:「黙って読んでいる人達(ROM)の情報伝伝播,購買への影響」, 慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士論文 (2003)
[7] 佐々木稔・新納浩幸:「Webサイトの階層的なWebディレクトリへの自動分類手法」, 情報処理学会 研究報告 (2007)
[8] 斉藤倫克・後藤正幸:「知的構造化と特徴分析に基づくアフィリエイトサイト構築支援に関する研究」,日本経営工学会論文誌 Vol.59 No.2 (2008)
[9] Domingos,P : 「MetaCost : A general Method for Making Classifiers Cost-Sensitive」, Proc. Fifth Intl. Conf.on Knowledge Discovery and Data Mining (1999)